日常生活に欠かせないコンピュータグラフィックス
近年、様々な分野でコンピュータグラフィックスによって作られた映像を見ることができます。例えば、映画やゲームなどのエンタテインメント分野、3Dスキャンデータの可視化などの医療分野、ドライビングシミュレータや航空機シミュレータなどのシミュレーション分野、さらに、日常のスマートフォンの画面に表示される映像などです。さらに、今後は拡張現実(AR)や仮想現実(VR)技術の発展に伴い,それらで表示する映像作成にも一層応用されていくことでしょう。そのなかでも、特に、映画のような作品では、偽物と区別がつかないリアリティや、様々な視覚効果の追加により、作られた映像から受ける印象をより本物に近づけることが求められます。当研究グループでは、そのような映像表現作成技術の研究開発を行っています。リアルな映像表現のためには光学シミュレーションと視覚シミュレーションの二つが重要です。光学シミュレーションでは物体表面を撮影したデータを利用した表面反射特性の再現、視覚シミュレーションでは人が光を知覚するまでに行われる視覚系での処理を模倣した表示方法を研究しています。

残像のシミュレーション --発生メカニズムの解明されていない現象をコンピュータグラフィックスを使って再現する試み--

残像は眩しい光を見た後に発生する生理的な現象です。太陽の光が何かに反射されて目に入ってしまったとき、車のヘッドランプの光を直接見てしまったときなど、日常的に感じられます。このように残像は身近に発生する現象ですが、その研究の歴史は古く、アイザック・ニュートンも興味を持ち、実際に太陽を鏡で見て残像を発生させ、その色の変化を観察したという報告も残っています。(ニュートンはその原因を眼の中のスピリット呼ばれる物質が原因であると言っています。皆さんはくれぐれも太陽を鏡で見ないようにしてください。)このように古くから研究されている残像ですが、意外にも未だ発生メカニズムは解明されていません。そこで、我々は観測された残像の色変化のデータを基に、残像の見え方を再現する研究を行いました。実際には、ニュートンが得た観測データよりも、新しい実験で得られたデータを基にして、残像の見え方の再現を行いました。これは今後、ドライビングシミュレーションやヘッドマウントディスプレイへの表示などの映像表現に応用可能であると考えています。