新生児の聴力を調べたい
本研究室では、機械及び聴覚の知識を活かした診断機器を開発することにより、医療への貢献を目指しています。新生児における聴覚疾患の発生割合は1,000人に約1~2人と言われており、聴覚疾患の早期発見及び治療は、言語能力の発達と知識の形成に大きく貢献します。現在新生児に対する聴覚スクリーニングには耳音響放射(otoacoustic emission: OAE)もしくは自動聴性脳幹反応(automated auditory brainstem response: AABR)によって調べられており、高精度で難聴を発見できます。しかしこれらの方法では伝音性や感音性といった難聴の種類の判別は困難です。そこで私たちは、外界から入ってきた音を、受容器のある内耳へと伝える役割を持つ中耳の振動挙動に着目し、音響工学的に中耳の動きやすさを計測することにより、病変の診断を非侵襲に行える装置の開発を行っています。また、この装置を新生児に適用し病変の早期発見に役立てることも目指しています。

内耳に隠されたタンパク質モーター

哺乳類の内耳には12,000個もの外有毛細胞(outer hair cell: OHC)が規則正しく三列に並んでいます。音が鼓膜を介して内耳へと伝わると、この三列のOHCが音信号に同期しながら協調運動することで、我々の聴覚感度を数千から数万倍に増幅しています。このOHCの伸縮運動の駆動源は、細胞側壁に存在するタンパク質モーターであると考えられています。タンパク質モーターは、髪の毛の直径の1000分の1のサイズで伸縮する分子です。本研究室では、このタンパク質モーターの変形メカニズムを解明し、さらに、それを自在に操作し利用する分子技術の開発を目指しています。