情報・生体工学プログラム

教授

小野 智司

生物の進化過程を模倣した問題解決アルゴリズム

難しい問題の解き方を生物の進化過程に学ぶ

生物は世代を重ねて緩やかに進化することで,環境に適応した形質を獲得します.この進化の過程を模倣した技術が進化計算と呼ばれる問題解決アルゴリズム(*1)です.通常は問題に対する解の候補を1つ作成し,徐々にそれを改良することでよい解をつくりあげていきます.これに対して進化計算は,100個や1000個など,大量の解の候補を作成し,それらの解候補を仮想的な生物とみなします.そして,それらの生物が子を生成することで次の解の候補を作り出します.このとき,よい形質をもった親同士が子をつくる際に,それぞれの親のよい形質を継承したよい解候補がうまれるかもしれません.このような偶然の積み重ねに期待することで問題を解きます.右の図は,進化計算を用いて,規格を遵守しつつ装飾性を持たせたQRコードを生成した例です.QRコードに絵を重ねると,汚損等が生じたときに読み取りが難しくなります.これに対して進化計算を利用した装飾QRコード生成方法は,QRコードとしての規格を完全に満たしつつ,人間にとって意味のある絵のように見えるパターンを作り出すことができます.

進化計算を用いて装飾QRコードを作成する様子

進化計算は様々な実問題に応用可能

進化計算により世界最少の計測回数で物体全周形状を復元する技術

進化計算は最適化と呼ばれる問題を解くことを得意としており,設計,製造,流通,金融等様々な分野に応用が可能で,N700系新幹線の先頭車両の設計にも応用されました.ここでは,本研究室における3次元計測への応用例を紹介します.一般的に3次元スキャナを用いて物体を計測する際,視点を変えながら何度か計測を行い,計測された部分形状を合成する必要があります.計測された3次元形状を合成する処理を3次元位置合わせ問題と呼びます.一般的な位置合わせ技術を利用する場合,物体全体の形状を復元するためには数回から10回程度計測を行う必要があります.本研究室では,進化計算を3次元位置合わせに応用した新しいアルゴリズムを開発しました.このアルゴリズムは,進化計算が持つ特性,すなわち,多数の解が同時に改善されていく性質を活かすことで,局所解(*2)に陥ることを避けて最適な解を発見することができます.進化計算の利用を前提とした新しい評価関数(*3)と組み合わせることで,2回または3回という極めて少ない回数(私達が調べた限りでは世界でもっとも少ない回数)の計測結果から物体全体の形状を復元できるアルゴリズムを実現することができました.

*1 特に最適化問題と呼ばれる,多数のパラメータを同時に決定する問題を特くことを得意とするアルゴリズムです.
*2 探索空間においてその近傍にはそれ以上よい解が存在せず,改善が望めない解を指します.
*3 解の良し悪しを評価する関数を評価関数と呼びます.

Profile

情報・生体工学プログラム

教授

小野 智司

2002年筑波大学大学院工学研究科博士課程修了.博士(工学).2003年4月鹿児島大学工学部情報工学科助手に着任.2010年1月より現職.専門は計算機科学,人工知能,進化計算.所属学会はIEEE,情報処理学会,電子情報通信学会,人工知能学会,進化計算学会等.受賞歴に人工知能学会研究会優秀賞(2008年,2017年),同学会全国大会優秀賞(2012年),情報処理学会山下記念研究賞(2012年),芸術科学会論文誌論文賞(2009年)など.

学生(受験生)へのメッセージ

ソフトウエアの研究開発は他のものづくりとは異なり,生産というプロセスがありません.あなたが書いたプログラムが瞬く間に全世界で使われるようになる可能性もあります.ぜひ鹿児島大学で一緒に人工知能や進化計算の研究に取り組んでみませんか?

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