なぜ赤外線?
赤外線は眼で見える光(可視光線)よりも少し波長が長い電磁波です。赤外線には宇宙に漂っている塵に散乱されたり、吸収されにくいという特徴があります。私たちの住む天の川銀河の中心部分は、実は可視光では見ることができません。これは宇宙の塵によって0等星が30等星になってしまうほどの非常に強い減光効果があるためです。これぐらいの減光があると、すばる望遠鏡でも、ハッブル宇宙望遠鏡でも見通すことはできません。一方、赤外線は可視光線で30等の減光があるようなときでも、3等の減光にしかなりません。つまり、赤外線であれば天の川銀河の中心を見ることができるのです。私たちはこの赤外線を用いて、天体観測を行っています。普段は、ミラ型星と呼ばれる星の明るさの変化から、その星までの距離を推定し、ミラ型星が銀河系にどのように分布しているかを知り、銀河系がどんな形をしているかを明らかにしようとしています。また、突発的に起きる天体現象も研究対象としており、新星・超新星、最近では、中性子星の合体により生じた重力波放射天体の観測も行い、中性子星の合体により、金やプラチナなどの重元素が合成されていることを確認したという世界的研究にも協力しました。
手作り近赤外線カメラ
私たちは、薩摩川内市入来町に口径1mの光赤外線望遠鏡を所有し、この望遠鏡に赤外線カメラを取り付けて観測をしています。また、私が名古屋大学時代に開発にかかわった南アフリカ共和国に設置してあるIRSF1.4m望遠鏡にも赤外線カメラを取り付けて観測を行っています。天体観測用の赤外線カメラは基本的に売っているものではありません。また、もし、売っていたとしても、買って手に入るものでは、世界のライバルと同じことしかできません。そこで私たちは世界で自分たちしか取得できないデータを得るため、赤外線カメラを研究室で自作しています。赤外線カメラは、望遠鏡で集めた赤外線を結像させる光学技術、結像した赤外線画像を高精度に測定する検出器と電子技術、光学部品や検出器を極低温まで冷却する真空冷却技術が高度に融合した精密な測定器です。私たちは現在、入来観測所の1m望遠鏡に取り付ける新しい近赤外線3バンド同時撮像カメラの開発を行っています。このカメラ開発の主な担い手は、大学院生です。私自身がそうでしたが、自分が苦労して開発した観測装置が初観測を迎えたときの喜びは格別であり、指導する学生たちには、装置作りの苦しさと完成したときの歓喜をぜひ味わって欲しいと思っています。