曲げられるセラミックスとは?
セラミックスは陶磁器のように本来は曲げられないものです.無理に曲げようとすると割れてしまいます.しかし,セラミックスには高温に耐えることができ,化学的にも安定というメリットがあります.また,超伝導体,透明導電体,半導体,誘電体,圧電体など様々な性質を持つ物質が作られていて,例えばスマートフォンであれば各種センサーや表示画面,内部の電子素子などいろんな所に応用されています.
そのセラミックスをナノサイズ(*1)の細いファイバ状にすることで曲げられるようにしたのが右の写真です.電界紡糸法という方法を用いて,セラミックスの原料を含む溶液をシリンジ(注射器)の中に入れ,注射針の先から押し出す際に強い電界の力で引っ張り,細く伸ばしたあとに400〜700℃の高温で焼いたものです.写真では2種類のナノファイバ(*2)を同時に作り,回転させたドラムコレクタで巻き取っています.このようにすることで2種類のナノファイバを混合させた「布」状の膜を得ることが出来ます.ここで用いているのはスズドープ酸化インジウム(ITO)とシリカ(*3)(SiO2)の2種類の物質で,出来た布は直径3mmの棒に巻き付けても割れることはありません.
多彩なセラミックスナノファイバとその太陽電池・蓄電池への応用
様々な性質を持つセラミックスを組み合わせることにより,多彩な電子素子を実現することが出来ます.ITOは液晶テレビやスマートフォンの電極にも使われている透明導電体(*4)です.シリカは光ファイバの材料にもなっています.それらのナノファイバを組み合わせることで,電気も光も通すことが出来る,曲げられて燃えない「布」を作ることが出来るのです.
また,右の写真のようにナノファイバの表面を別のセラミックスでカバーすることも出来ます.ここでは,1つの原料液の周りに同時に別の原料液を供給し,一緒に電界で下に引っ張ってナノファイバを作っています.コア(中心)には電気を流すITO,シース(被覆層)にはリチウムイオン(*5)を蓄えることが出来る酸化タングステン(WO3)を用いています.このようにすることで,ナノサイズの蓄電池を実現することが出来ます.我々の研究室では,この技術を元に曲げられる太陽電池や蓄電池,太陽光で蓄電できる「光蓄電池」(*6)の実現を目指しています.
さらに,多彩なセラミックス材料を用いてナノファイバの「布」をつくることで,これまでには実現できなかった新しい電子素子を実現できるものと期待されます.
*1 1ナノメートル(nm)は10億分の1メートルで1 nmは原子サイズのほぼ10倍程度にあたる.一般的にナノサイズとは1ミクロン(μm)以下,すなわち1〜数百nm程度を言う.
*2 ナノサイズの直径を持つファイバ.ファイバとは写真のような繊維状の物質を言う.写真の100 nm の太さで髪の毛の約1000分の1の太さに相当する.
*3 酸化シリコンの別名でガラスの主原料.
*4 透明でありながら電気を流すことが出来る物質.一般に電気を流すことの出来る金属は光を吸収・反射するので,光を通すことは出来ないが,セラミックスでそれを実現させたもの.
*5 現在,蓄電池の主流となっているリチウムイオン電池内では,リチウムイオンを正極と負極の間で出し入れすることで充電と放電を実現している.
*6 蓄電池に光電変換(光を電子に変換する機能)を付加することで,光を当てるだけで蓄電できる素子を実現できる.太陽電池だけでは光が当たらない夜間は発電しないが,蓄電機能を付加しておくことで,昼間に蓄えた電気を夜間に利用できる.