強磁場による新物質合成法の研究開発
身の回りの磁石の発する磁場の大きさは地磁気の約2000倍程度で、そのエネルギーは温度換算して約0.1ケルビン程度ととても小さいです。そのため300-2000ケルビン以上の温度で物質を溶かして合成するときに、普通の磁場のエネルギーは無視できるほど小さいとされてきました。
でも、もし地磁気の10万倍から90万倍の強磁場を用いることができればどうなるでしょう。その強磁場と物質の磁気との相互作用エネルギーは5-45ケルビンに達し、温度300-800ケルビンでの強磁性物質の合成に強い影響を与えます。私たちの研究室では、超電導コイルを用いた世界最強定常磁場で利用する実験装置を開発、東北大学強磁場施設や米国強磁場研究所の研究協力のもと、世界で私たちだけしかできない手法を用いて新しい物質合成法を次々と発見しています。例えば、非磁性の原料AとB粉体を混ぜて、ある温度で強磁場を印加すると、自ら磁石の結晶になるように合成していくことを発見しました。そして今、その磁場合成の起源や得られた物質特性など未知の科学現象について、物理学を用いて解き明かしています。
磁場効果の探索〜磁場による焼酎酵母菌増殖抑制効果の発見〜
私たちの研究室では、学部1から3年生の自主研究(サイエンスクラブ)として磁場効果の探索を行っています。最近サイエンスクラブ活動の一環として、農学部の先生の協力のもと、焼酎酵母に強磁場を印加する実験をしました。私たちは焼酎酵母菌に強磁場を印加すると、酵母菌の増殖が特定の磁場強度で抑制されることを見出しました。磁場を取り除くと、焼酎酵母は再び増殖を始めます。増殖が抑制される磁場強度は、焼酎酵母菌の種類によって異なることを発見しました。その原因については解明の途中ですが、磁場による酵母菌の選別やブレンドも可能と考えています。かなり応用の効く発見として期待しています。
強磁場はこの20年ほどで利用しやすい実験環境となりました。そのため、未発見、未解明の強磁場効果が多くあると考えています。強磁場科学はとても新しい研究分野です。私たちは未発見の強磁場効果、物理現象を探索し、発見、解明して、磁場の産業応用を目指しています。