精神的な豊かさとしての建築空間
紀元前、古代ローマ時代の「建築十書」(ヴィトルウィウス著)では、建築の重要な3要素として用(使いやすさ、機能)、強(強さ、安全性)、美(美しさ、芸術性)が挙げられています。これらは相反的関係になることもありますが、相互に独立したものではなく、相補的関係にあることが理想的です。建築は先ずシェルターでなくてはなりません。つまり安全性が第一です。安全性が確保されると、次に求められるのが快適性です。使いやすく、機能的、暑くなく、寒くない。これらは身体的な安全性、快適性であり、現在の建築技術でほぼ確保できています。しかし、ローマ時代から言われているように、建築はそれだけではありません。精神的な豊かさとしての芸術性や美学的要素が必要です。形や色彩、配置、プロポーション、何がどうなっていると美を感じるのでしょうか?また、人はどの様にして、それらのアイデアを思いつくのでしょうか?私の研究室では、それを創り出すために必要なことについての研究を行っています。
学生と共に実際の建築空間を設計する
設計(デザイン)には論理的思考(頭で考えること)と実践的活動(手で考えること)の両輪が必要だと考えており、当研究室ではPBL(Project Based Learning)を出来るだけ行いたいと考えています。鹿児島大学に赴任して5年の間に新築とリノベーションを合わせて6つの建築空間を設計する事が出来ました。マンションの一室をリノベーションした住空間作品では、通常の通り芯XY軸から斜めに傾けたUV軸を規準にデザインを行い、ほんの少し日常とずらされた空間が生活に彩りを与えることを目指しました。奄美に新築したオフィスビルでは、現代のヴァナキュラー*1をテーマに設計をしています。島の人々が集える寺小屋のような建築です。本学図書館に新設されたラーニングコモンズは非常に低予算なプロジェクトでしたが、海と島嶼をイメージしたインテリアデザインとし、不定形な家具による多様なアクティビティの創発と活性化を試みています。実務としての設計活動を学生達と一緒に行うことは、非常に難しい事であり、課題もまだ山積みです。これらの作品はクライアント(施主)や施工者の協力と理解が無くては実現しない事であり、関係頂いた皆様への感謝の念に堪えません。
*1 ヴァナキュラー(建築):風土に根差した土着の建築