電気電子工学プログラム

准教授

甲斐 祐一郎

高効率・低損失モータ開発のための材料評価と構造設計技術に関する研究

高効率モータと損失

近年,省エネルギーと二酸化炭素などの排ガスの環境問題の改善へ向けてヨーロッパや中国の環境規制強化が進み,電気自動車が注目されています。電気自動車のエンジンとなるのがモータであり,モータの性能は車の走行性能や燃費に大きく影響するため,モータの性能向上が電気自動車の普及の重要なカギとなります。
モータは電気エネルギーと磁気エネルギーを機械エネルギーに変換する装置です。エネルギー変換を損失なく行おうとすることは簡単ではなく,必ず損失が発生します。また,モータは低速から高速回転までの幅広い領域で駆動されますが,効率よく駆動できる領域とそうでない領域があります。効率が悪くなる原因は,何らかの損失があるからです。損失にも,鉄損や銅損などの損失があり,発生メカニズムも対策もそれぞれ異なります(図1)。
一般に,産業用モータは重量の制約をあまり受けないため,体格を大きくし損失を低減することで高効率化が図られています。一方,電気自動車は体格を大きくするとモータの重量が増えて走行性能や燃費を含めた総合効率が下がるため,モータを小形・軽量化することが求められます。

モータの損失

モータの設計・開発

高効率・低損失モータ開発へ向けた新しい技術

また,モータ単体の高効率化も重要であり,体格を大きくせずに効率を上げるためには,モータの損失を低減する必要があります。損失の小さな材料を購入し,モータに用いれば高効率化が実現できるかというとそういうわけではありません。材料特性を正確に評価し,その材料を最大限に活かすようなモータの構造設計と製造技術が必要不可欠です。
私の研究は,計測と解析の両方の視点から,モータや使用材料の電磁気的現象の解明と損失低減技術に関する研究に取り組んでいます。電磁場の世界は目に見えないので,センサなどの計測技術や有限要素法などのコンピュータシミュレーション技術を用いて磁場を可視化しています。モータの加工・組み立て工程で発生する応力がコア(鉄心)材料に加わると,損失が増加することが知られています。私は,応力ベクトル磁気特性技術と呼ばれる概念を提案し,応力がモータやコア材料の電磁気特性に及ぼす影響を正確に把握し,材料特性を最大限に活かす技術開発を行っています(図2)。応力によって損失が低減する部分に着目し,応力を利用した新しいモータや材料開発に加え,モータの磁気・機械・熱設計技術の構築を目指しています。

※1 コイルに電流を流し(電気エネルギー),発生した磁界(磁気エネルギー)をコア(鉄心)や磁石を用いて回転運動(機械エネルギー)に変換する装置である。
※2 エンジン車と比べて,部品数が少ないのが特徴である。電気自動車は電気制御であり,自動運転と相性が良いとも言われている。
※3 コアには磁束により生じる損失がある。ヒステリシス損失とうず電流損失に分けられる。ヒステリシス損は,コアに外部磁界を印加し,磁界の強さを変化させるとヒステリシス曲線を描き,エネルギーを消費する。コア内部に磁束の変化により電磁誘導による起電力が生じうず電流が流れる。コア内部にうず電流が流れると,コアの抵抗によりジュール熱を発生する。
※4 コイルは抵抗があるので,電流を流すとジュール熱が発生する。導体に電流が流れることで発生する熱(電力)は損失となる。
※5 入力エネルギーに対する出力エネルギーの割合を表す。入力エネルギーは,出力エネルギーと損失の和でも表すことができる。
※6 モータの体格を大きくすると,出力が増加するとともに損失も低減する。産業用モータは,比較的体格や形状の自由度があるため,大型化することで高効率モータとすることができる。
※7 磁気設計とは,モータの損失が低減するように鉄心やコイル構造などを最適化すること。機械設計は,モータの機械強度や振動を取り入れた設計である。熱設計は,モータの発熱や冷却を取り入れた設計である。コアをうまく生かすように磁気設計を行っても,機械・熱設計次第で,モータの性能は左右される。
※8 モータを組立てるための一連の作業工程のことである。コア材料はモータ形状に加工され,モータコアを積層し固定される。さらに,モータコアにコイルが巻かれた後,ケースに入れられ組み立てられる。
※9 物体内部に発生している単位面積あたりの力を表す。コア材料に応力が加わると電磁気的な現象が変化する。
※10 実機モータの応力や駆動状態を模擬し,コアの磁気特性(鉄損など)を正確に評価することができる。研究者が独自に開発したものであり,世界に1つしかない装置である。

Profile

電気電子工学プログラム

准教授

甲斐 祐一郎

1981年生まれ。大分大学工学部電気電子工学科卒業,同大学大学院博士前期課程電気電子工が専攻修了,同大学大学院工学研究科博士後期課程物質生産工学修了,日本学術振興会特別研究員,博士(工学)。(公益財団法人)大分県産業創造機構研究員,大分大学工学部電気電子工学科助教をへて2015年より現職。授業は,高電圧・プラズマ工学,エネルギー工学論などを担当。現在の専門は,磁性材料の評価,磁気計測及び磁界解析を中心とする磁気応用工学の研究に従事など。趣味は,桜島探索,マラソン。

学生(受験生)へのメッセージ

私が電気電子工学科に興味を持った理由は,パソコンについて詳しくなれると思ったからです。レポート作成やプログラミングなどを勉強することでパソコンが使いこなせるようになるようになりました。さらに,電磁気学の授業の中で,パソコンを使って磁場の計算や計測機器を制御できるという話を聞いて興味を持ったことが,今の研究をはじめるきっかけです。現在は,コンピュータシミュレーションや三次元図面ソフトを使って装置を設計し,計測機器を組み合わせた独自のシステムや計測・分析プログラムを開発しています。自分で開発したシステムで新しい現象を発見する度に「なぜそうなるのか?」や「この結果をどう生かせるか?」を日々考えることが研究のモチベーションになっています。失敗は沢山しますが,それ以上に学ぶことが多く,失敗を恐れないことやあきらめないことが大切ということを実感しています。これから受験する皆さんが,目標に向かってあきらめずに一生懸命勉強し,鹿児島大学に入学してくれることを願っています。

他の研究者

一覧へもどる